
【第6話】世間が抱く「トラックドライバー」のイメージ
トラックドライバーは、巷で様々なイメージを持たれる。
前回 第5話のポイ捨てするというイメージも、悲しくもトラッカーが強く持たれているイメージの1つであるし、その他にも
- 怖い
- イカつい
- 力持ち
というステレオタイプなものから、
- 八代亜紀
- 菅原文太
- デコトラ
といった
ああ、なるほどな
な固有名詞もよく聞くところだ。
しかしトラッカーにはもう1つ、これら強烈なイメージを差し置くほど強く、かつ当然のように持たれるイメージがある。
運転が上手い
だ。
トラックドライバーとは、言わずもがなクルマを運転してこその職業ゆえ、運転が上手というイメージを持たれるのは、当然といえば当然である。
事実、現役トラックドライバーの方々自身も、その多くが我々はプロドライバーであるという確固たるプライドをもって運転されているだろうし、一般ドライバーの読者からも、トラックドライバーの事故などに対して
プロなんだから
トラックドライバーなのに
と揶揄する声を聞く。
しかし実際のところ、トラックドライバーが一律に運転が上手いかといったら、残念ながらそんなことはない。
タイヤ並べて走っていても、
なんて運転下手っぴやんや
会社はこれでよく彼/彼女を道に放ったな
と、距離を目一杯置きたくなるトラックはかなりの頻度で出遭う。
世間のイメージやトラッカー自身のプロ根性とは裏腹に存在する、これら運転下手なトラックドライバー。
彼らはどうして運転が下手なのか。
それは他でもない、初心者だからだ。
大きな車体を扱う手前、先述通りやはり世間からはトラックドライバー=皆運転が上手いと思われがちだが、トラックドライバーの中にも、初心者は当然存在するのである。
筆者が初めてトラックに乗ったのは、大型自動車免許を取るべく通った教習所だった。
周りの教習生は、すでに職場で4tなどのトラックに乗り慣れていた男性ばかりで、内輪差をもろともせず、クランクやS字をスイスイと走り抜けていたのだが、一方の筆者は、教習回数を何コマ重ねても空荷のトラックを上に飛び上がらせて止まったり、エンストさせたりという段階からなかなか脱せなかった。
大学時代、周囲の同級生がオートマチック車で普通自動車の免許を取得する中、
ここでオートマなんて取ったら工場の娘の名がすたる
という謎のポリシーで、幸いにも同免許はマニュアル車で取得していたものの、それでも数年ぶりのシフトレバーの扱いにはほとほと苦労し、技能教習の時間が終わるころには、毎度体の水分、全部背中のシートに吸い取られたんちゃうかと思うほど大量の汗をかいていたのを覚えている。
それでも、なんとかめでたく大型自動車免許を取得したのだが、その直後、自社のトラックで実施した初めての車庫入れは、普通ならば10秒で済むところ、20分経っても完了できず。
後ろで「オーライオーライ」言い続けてくれていた営業の声はカラッカラになり、最初こそ言い続けてくれていた「上手上手」のお世辞も、終盤は一切言わなくなっていた。
日が暮れる頃、ようやくクルマを降りて見た車体は、この世から平行という概念がなくなったのではと思うほど、それは見事な斜めだった。
こんな状態での公道への単独デビュー。
詳細語らずとも想像はつくだろう。
特に赤信号に当たった時は本当に苦痛で、やはりどうやっても空荷の際は上に飛び上がるようにしか止まれない。
にもかかわらず、これがどうしたものか、筆者が身を置いていた金型業界は、納品した足の帰りに引取りがあること、引取りに向かう足で納品することはほとんど起こり得ず、大概の場合、片道が空荷。
気が付けば後ろにつくクルマは常に毎度驚くほど自分と車間を空けていた。
中でも最もしんどかったのが、得意先での車庫入れだ。
自社の車庫ならぶつけてもまだ笑って許してもらえるが、得意先だと話はずいぶん変わってくる。
よりによって零細企業の多い金型屋。
各得意先のシャッターの幅は面白いほど狭いうえに、ドライバーが女性だと現場の社員が物珍しそうに寄り集まってくる。
そうなれば緊張はさらに高まり、今度は右と左の概念すら分からなくなるのだ。
時には、他のトラックドライバーならどけなくても十分入るスペースを
すみません、当てて弁償できないので
と、列を成して停めてあったフォークリフトを全部どけてもらったこともあった。
今でこそこれらは個人的には笑い話になるが、真剣な話、現在この瞬間も緊張しながら道路を走っている初心者トラックドライバーは大勢おり、トラックドライバーだからといって全員が運転のプロであるとは限らないのだ。
先述通り、一般ドライバーもトラックドライバー自身もトラッカー=運転のプロとして考えていることが多いし、そうあるべきだと筆者も思う。
が、初心者のトラックドライバーが運転が下手なのは、決して不自然なことでも悪いことでもない。
どんなに会社に研修制度があっても、公道への単独デビューには、大きなプレッシャーや緊張が生じるし、慣れない職場で慣れないクルマに乗り、慣れない街を走れば、たとえ会社がひとり立ちさせても、運転がしばらく下手なのは致し方ないことなのだ。
運転は、いつか誰でもできるようになる。
こんな筆者でも結局、断続的に10年間日本の道路を無事故無違反で走ってこられたのだから間違いない。
これまでに幾度となく発している言葉なのだが、筆者はトラックドライバーの役割はトラックの運転ではなく、荷物を安全・確実・定時に送り届けることであり、プロのトラックドライバーというのは、運転ではなく、これらを守れる人のことをいうのだと筆者は思っている。
もし、これからトラックドライバーになることを少しでもお考えならば、
運転下手だから
大きいトラックは怖い
と躊躇せず、是非一度チャレンジしてみてほしいと身をもって思う。
一方、プロと自認するトラックドライバーは、自身にもデビュー当時があったことを思い出し、トラックドライバーとしての習慣やマナーがなっていないトラックがあってもそうムキにならず、広い心で見守っていくよう心掛けるべきだろう。
昨今、何かと肩身の狭いトラックドライバーだが、こうして仲間を労り合うことも、道路環境の向上へとつながるはずだ。
橋本 愛喜(はしもと あいき)
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