【第4話】120km/hでトラックドライバーに起こること
3月1日から実施された高速道路の一部120km/h化に際し、先日、ハーバービジネスオンラインに「高速道路一部120km/h化」に関する記事を寄稿したところ、大変多くのご意見をいただいた。
警察庁は2017年末から、新東名高速道路の新静岡IC―森掛川IC間の約50kmと、東北自動車道の花巻南IC―盛岡南IC間の約27.5kmの最高速度を試験的に100km/hから110 km/hに引き上げ、クルマの速度や事故件数などを検証。
その結果「問題なし」と判断し、今回の120km/hへの引き上げに至った。
各報道では、この120km/h化で煽り運転が減少・解消されるとする論調が強いが、元トラックドライバーという目線から今回の引き上げを見ると、全くそうは思えない。
むしろ、煽り運転を含む危険運転や衝突事故は、今後増えるとさえ思っている。
元記事でも述べたが、このように思う要素として、高級車に乗った凡人たちの暴走行為が高まる恐れがあること、速くなったクルマの流れに運転弱者がついていけなくなる可能性があること、そしてトラックドライバーの最高速度が80km/hに据え置かれたことがある。
120km/h化になれば、最初こそ皆慎重に運転したり様子見したりするだろうが、速度に対する取り締まりが緩い日本においては、現在110km/h道路の実勢速度が120km/hとなっている現象と同じように、
130km/h出しても、10km/hしかオーバーしないんだから大丈夫だろう。
という甘えが生じ、徐々に実勢速度が130km/hへと引き上がっていく。
さらにはやがて、
この高速道路は140km/h走れるように設計されているからもう少し出しても問題ないはず。
とするドライバーも現れるようになり、区間におけるクルマの流れはさらに上がる可能性がある。
その結果、彼ら運転狂者と運転弱者やトラックドライバーの間には、煽り運転が生じる根本的な原因となる速度差が大きく生じることになるのだ。
120km/h化によるトラックへの影響
運転狂者や運転弱者については、元記事を読んでいただくとして、こちらではトラックドライバーが今後どういう問題と対峙する可能性があるかを検証しよう。
先述したように、120km/h化は事実上の実勢速度130km/h化である。
ご存じの通り、貨物輸送を扱うトラックは社速として80km/hに定められていることが多いうえ、スピードリミッターのせいでどんなにアクセルを踏み込んでも90km/hしか出ない。
今回の120km/hでは、この速度規制が据え置かれたのだ。
つまり、実勢速度が底上げされ、クルマの流れが速くなる中、トラックが80km/hだと、その速度差は30km/hから50km/hにもなることも予想されるのだ。
100km/h道路を50km/hで走ることがいかに危険なことかは誰しもが知るところ。
車線変更にも今以上に大きな危険が伴う。
今回の記事に対する反応で分かったのは、高速道路120km/h化に賛成する多くは、普通車などで技術的にも機械的にも120km/hが出せる一般ドライバーだということだ。
軽自動車ドライバーや運転弱者、トラックドライバーの多くは、逆に今回の引き上げに疑問の声を上げている。
現に、先日トラックドライバーに向けたアンケートでは、実に69人中67名が「高速道路一部120km/h化で煽り運転は増える」と回答。
残りの2名は変わらないとし、煽り運転が改善されるという意見は1人としていなかった。
トラックドライバーも休日は一般車ドライバーだ。
それでもトラックドライバーと一般ドライバー(乗用車しか乗ったことがない人)の120km/h化に対する意識がここまで違うのは、やはりトラックには、乗ってみないと分からない速度差による危険度や苦労があるからだといえる。
それを乗り手であるトラッカーは日々感じながらトラックを走らせているのだろう。
改めて頭が下がる。
一方の一般ドライバーには、この90km/hでしか走れない辛さをなかなか分かってもらえない。
実際、今回の記事についたコメントを見ると
トラックは左1車線で走ればいい話。
80km/hが85km/hを追い越すな。
など、トラックの遅さを揶揄する意見が多く残っている。
こうした120km/h化に対してトラックが現段階でできることは、マイペースでいることだと思う。
大きな図体であるがゆえ、どこへ行っても煙たがれやすいトラックだが、日本の貨物輸送の9割を担うのは、他でもないトラック。
彼らがいなければ、邪魔だと言い放つ一般ドライバーも、今こうして快適な生活は送れていないのだ。
現役のトラックドライバーはもちろん、これからトラッカーを目指そうとしている方も是非、
自分は日本の生活を運ぶのだ。
というプライドを強く持って、マイペースで安全運転に努めてほしい。
著者紹介
橋本 愛喜 (はしもと あいき)
フリーライター。
大学卒業間際に父親の経営する零細町工場へ入社。
大型自動車免許を取得し、トラックで200社以上のモノづくりの現場へ足を運ぶ。
その傍ら日本語教育や主催したセミナーを通じ60か国4,000人以上の外国人駐在員や留学生と交流。
滞在していたニューヨークや韓国との文化的差異を取り入れながら、多分野をハーバービジネスオンラインやIT mediaビジネスオンラインなどで執筆中。